交通事故被害者の最後の砦「自賠責保険の被害者請求」とはどうやる?
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交通事故被害にあってしまった場合、被害者は加害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を受け取ることができます。損害賠償金で被害者は怪我の治療を行ったり治療中で仕事ができない間の生活費などを賄います。
一般的には任意保険からの支払いを受けますが、中には任意保険未加入の状態で交通事故の加害者となる方もいます。
そういった場合には、自賠責保険を利用して損害賠償金を受け取ることができますが、加害者の状況によっては自賠責保険の加害者請求を行えないこともあります。
そんなときに被害者救済の最後の砦となるのが自賠責保険の被害者請求です。被害者請求を行えば、加害者と示談成立前でも保険金を受け取る事が可能です。
ここでは自賠責保険の被害者請求にまつわるすべての情報をお伝えします。交通事故に遭い、悩まれている方の救いになる内容ですので、ぜひお読みください。
自賠責保険は被害者の救済を目的にした保険
自賠責保険は、交通事故の被害者の救済を目的とした保険なので、補償の対象範囲は被害者のみとなります。
もし交通事故で加害者が怪我をしていた場合でも、自賠責保険では治療費などの保険金が下りることはありません。
また、加害者被害者双方の自動車修理費用や、物損事故の場合の修理費用などは自賠責保険では補償の対象外となっているので、保険金が下りることはありません。
被害者請求ってなに?
自賠責保険の被害者請求とは、自賠責損害賠償保障法の第16条にあることから「第16条請求」とも呼ばれており、交通事故に遭った被害者が自賠責保険会社へ直接保険金の請求を行う手続きの事を言います。
交通事故においては、多くの場合加害者が加害者請求を行う、あるいは加害者の加入している任意保険会社が加害者の代わりに被害者に対して損害賠償金を支払った上で、自賠責保険会社へ加害者請求をかけるという流れが一般的となっています。
しかし、加害者側になんらかの事情があったり、加害者と被害者の間での示談がなかなか成立しない場合には、加害者ではなく被害者が自賠責保険会社へ保険金支払いの請求を行うということもあり、これを被害者請求と呼びます。
これは法律上認められている被害者の権利となっています。
被害者請求と加害者請求の違い
自賠責保険における被害者請求(自動車賠償責任保障法第16条請求)と加害者請求(自動車賠償責任保障法第15条請求)の違いは、例えば請求権の時効があります。
加害者請求の場合、被害者へ損害賠償金を支払った日から3年が時効となっています。
一方、被害者請求の場合は傷害であれば事故の起こった日から3年、被害者が死亡した場合は死亡した日から3年、後遺障害と認定された場合は医師から症状固定された日から3年が時効となります。
その期間内に請求を行わないと請求権が消失してしまいます。
また、加害者請求は被害者へ損害賠償金を支払った後でなければ請求をかけることができません。これに対し被害者請求は損害が確定した時点で加害者を通すことなく、自賠責保険会社へ直接請求をすることができますので、当面の治療費などを賄うことができます。
被害者が損害賠償を請求する基礎知識
交通事故の被害者が自ら自賠責保険の被害者請求を行うという事は何らかの理由があるからです。基本的には加害者が加害者請求を行う流れになります。
また、被害者は交通事故の被害を受けて怪我の治療などもありますので、被害者請求をするとなると書類を集めたり申請を行ったりといろいろ大変になりますので、できる限り加害者請求を行ってもらった方がよいでしょう。
加害者がすぐに損害賠償を支払ってくれない場合は被害者請求は有効な手段です。
加害者が任意保険加入・未加入で請求する相手が変わる
交通事故の被害者が損害賠償金を請求する相手は、加害者が任意保険に加入しているかいないかによって変わります。
加害者が任意保険に加入していない場合は、自賠責保険会社に対して直接被害者請求を行う流れとなります。
もし、加害者が任意保険に加入していた場合には、任意保険会社が一括支払い制度を利用して加害者の代わりに損害賠償金を肩代わりしますので、被害者は任意保険会社に対して請求を行います。
自賠責保険会社へ被害者請求を行うには手間がかかるデメリットがありますが、状況によってはメリットとなることもあります。
自賠責保険の請求の多くが加害者請求
交通事故では加害者が被害者に対する補償を優先すべきという考え方がありますので、基本的には被害者請求よりも加害者請求を行う事が多くなります。
しかし、交通事故の加害者が実際に保険会社に対して加害者請求の手続きを行うということは稀なケースとなっています。
なぜかというと、多くの場合加害者は任意保険にも加入しています。任意保険に加入していると被害者への損害賠償金は任意保険会社が肩代わりをして被害者に支払うからです。
任意保険会社は肩代わりした損害賠償金について、支払った後で自賠責保険会社へ代理で加害者請求を行うのです。
任意保険会社が肩代わりで保険金を被害者に支払った後に加害者請求で回収
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、被害者へ支払う損害賠償金をまず任意保険会社が肩代わりして支払います。
支払いが済んだあとで、任意保険会社は被害者へ支払った損害賠償金の金額を元に、自賠責保険会社へ加害者請求をして被害者へ支払ったお金を回収します。
このとき、自賠責保険会社が支払う保険金の金額は、任意保険会社が被害者に対して支払った損害賠償金の金額が上限となります。
自賠責保険会社が支払う保険金の上限金に関する考え方は、任意保険加入時も未加入時も同じになります。
【加害者が任意保険加入】被害者は自賠責保険会社ではなく任意保険会社に請求
被害者が加害者に対して治療費や慰謝料を請求する場合、加害者が任意保険に加入しているかどうかで対応が変わります。任意保険未加入であれば被害者は直接自賠責保険会社へ被害者請求を行います。
もし、加害者が任意保険に加入していた場合は、被害者は加害者の加入している任意保険会社に対して損害賠償を請求することとなります。
損害賠償を請求された任意保険会社は、一括請求と言って一旦賠償金を肩代わりし、のちに自賠責保険会社へ請求して回収を行います。
直接損害賠償金を自賠責保険会社に被害者が請求するのが「被害者請求」
例えば交通事故の加害者が任意保険に加入していなかった場合、被害者自ら被害者請求を行うことがあります。しかし、任意保険未加入であっても必ず被害者請求にはなりません。基本的には加害者請求を行うことが多いからです。
しかし、加害者が損害賠償金を一時的に自己負担するだけの経済力がなかったり、加害者の対応が遅かったり、加害者と被害者の間での示談がなかなか成立しない場合などは、示談を待たずに被害者が直接自賠責保険会社へ被害者請求を行うこともあります。
このように、状況によっては被害者みずから被害者請求を行わなくてはならないという状況もあるのです。
被害者請求のメリット
被害者みずから行う被害者請求は、実はいくつかのメリットがあります。ですから、必ずしも被害者請求を行うことは面倒で手間のかかるデメリットしかない行為という訳ではないのです。
被害者請求を行うことのメリットはいろいろありますが、例えば後遺障害の認定を行う際に有利に進められたり、損害賠償金をこちらのペースで受取る事ができたりもします。
ですから、被害者請求は状況によって行った方がよい場合もあるのです。これから被害者請求の5つのメリットをお伝えします。
1.被害者自身が自分のペースで受け取りが可能となる
被害者請求は、加害者との示談交渉が終わっていなくても行うことができます。また、加害者請求は加害者自身が手続きを行わなくてはなりません。
加害者請求を行うにあたってはまず先に被害者に対して治療費や慰謝料などの損害賠償金の支払いを済ませてからでないと行うことができません。つまり、加害者は一時的にではありますが、被害者に対して支払う損害賠償金を自己資金で負担する必要が出てくるのです。
そこで、経済的な事情から損害賠償金の支払いタイミングが遅くなってしまうこともあります。しかし、被害者請求は加害者に直接行うのではなく自賠責保険会社へ行うので、加害者都合で支払いが遅くなることはありません。
2.加害者請求の「事前認定」では難しい等級が得れる
加害者請求の事前認定では、被害者請求に比べて後遺障害の等級が低くなるという傾向があります。
なぜかと言えば、加害者側の任意保険会社は加害者側を守る保険でもありますし、支払う保険金は少しでも少ない方が得をします。
ですから、後遺障害等級も低い方がよいのです。また、そもそも後遺障害の認定を受ける事が難しい場合もでてきてしまいます。
しかし、これが被害者請求になると、被害者みずからが請求を行うにあたっての資料を集めて送付しますので、損害賠償金の支払いに関する書類以外にも、後遺障害認定に有利となる書類を提出することが可能です。
こうしたことから被害者認定の方がメリットがあるということもあるのです。
事前認定と被害者請求はどっちが被害者にとって有利になるのか?
事前認定と被害者請求はどっちが被害者によって有利かという点については、その状況によって異なります。
被害者請求を行うということは、自ら資料を集めたり手続きを行わなくてはならないという手間があります。ですから、被害者の怪我の状態次第によってはそもそも被害者請求を行う事すら難しくなります。
一方で、被害者請求なら加害者との示談が成立していなくても保険金を請求して受け取ることができます。
後遺障害認定を求める際には、適切な等級認定が行われるように必要な資料を被害者側でそろえて自賠責保険会社へ提出することができますので、そういった場合には被害者請求の方が有利といえます。
3.示談を待たずに等級認定後に自賠責部分の保険金が支払われる
加害者請求(事前認定)を利用した場合、被害者の怪我の状況に応じて後遺障害の等級認定を受けることは可能です。しかし、等級認定は行われてもそれに対する保険金の支払いはこの時点では行われることはありません。
加害者請求(事前認定)では、後遺障害の等級に関する部分や、それ以外の部分も含めて加害者と被害者の間で示談が成立し、加害者から被害者へ損害賠償金の支払いが行われた後でなければ保険金の支払いは行われない仕組みとなっているのです。
しかし、被害者請求であれば後遺障害認定された時点で認定された等級の保険金支払いが行われますので、後遺障害の場合は被害者請求の方が有利といえます。
4.書類を万全にそろえ請求を行えば適正な結果が返ってくる
被害者請求のメリットは、後遺障害があった場合に加害者請求(事前認定)を行うのと比べて適正な結果が返ってくるという点になります。
加害者請求(事前認定)では思っていたよりも認定される等級が低かったり、場合によっては後遺障害と認定されないこともあります。しかし、被害者請求を行う場合には、自賠責保険会社へ被害者自らが後遺障害の等級認定に必要な資料や書類を集めて送ることができます。
後遺障害認定に必要な症状などの資料を自賠責保険会社へ被害者から送ることができれば、それらの資料をもとに後遺障害の等級認定が行われます。病院からの資料以外にも日常生活の様子などを資料として送ることで等級認定審査の資料にもなります。
5.補償金支払いを任意保険会社の交渉のカードにさせない
交通事故の被害者の立場としては、少しでも早く保険金や賠償金を手に入れたいという気持ちがあります。それは、交通事故で受けた怪我の治療費であったり、仕事ができない期間の生活費などに充てる為です。
本来であれば納得のいかない示談内容や損害賠償金であっても、任意保険は早く支払う事を条件として示談を成立させようという手段を講じてくる場合があるのです。
しかし、被害者請求であれば示談が成立していなくても被害状況に応じて自賠責保険会社から保険金を受け取ることができるので、任意保険会社のように補償金の支払いを示談交渉のカードとして利用されることはないのです。
被害者請求のデメリット
被害者請求にはいろいろなメリットがありますので有効活用した方がいいのですが、その反面デメリットも存在しています。ですから、一概に加害者請求よりも被害者請求の方がおすすめとも言えないのです。
ですから、被害者請求を検討している場合には、被害者請求におけるデメリットについても事前にきちんと理解した上で利用する必要があります。
では、ここからは実際に被害者請求におけるデメリットをご紹介したいと思います。
必要な書類がとても多く手続きが大変
被害者請求を行うとなると、当然ですが被害者自ら必要書類などを集めて手続きを行わなくてはなりません。被害者請求を行うにあたって必要となる書類はたくさんあります。
たとえば医師からもらう後遺障害診断書であったり事故に関する書類も複数必要となります。こうした書類を被害者が自分でそろえることはそもそも大変なのですが、場合によっては交通事故の怪我を負って治療中の場合もありますので、そうなるとさらに大変になります。
そうして集めた書類に合わせて、自ら作成しなくてはならない書類もあります。被害者請求にメリットを感じて実際に行うことは問題ありませんが、とても手間がかかるので覚悟は必要でしょう。
被害者請求に必要な書類一覧
(出典:交通事故サポートセンター)
上記は加害者請求、そして被害者請求に関する必要書類一覧です。
面倒な被害者請求を被害者自ら行う4つの理由
交通事故では基本的に加害者が被害者への対応を優先しなくてはいけません。また、実際に交通事故の多くは被害者請求ではなく加害者請求が行われています。
では、被害者請求を行わなくてはならない理由はどのようなものがあるでしょうか。
このような場合には被害者請求を利用する事がおすすめです。
それでは上記4つの理由を詳しく解説していきます。
1.相手が任意保険を未加入の場合で慰謝料などを支払う能力がない場合
交通事故の加害者の多くは任意保険に加入していますので、被害者は損害賠償請求を任意保険会社へ行う流れとなります。しかし、場合によっては加害者が任意保険未加入という事もあります。
交通事故の加害者が任意保険未加入だった場合、加害者は加害者請求をするにあたりまず先に被害者に対して自己負担で損害賠償金の支払いを済ませなくてはなりません。
しかし、その経済力がなければ加害者は損害賠償金を支払えず、加害者請求も行えません。それでは被害者もお金を受け取れず治療費を捻出できなくなってしまうので、そういった場合には被害者請求を行います。
2.加害者に誠意がなく、示談交渉が進まない場合
交通事故では、加害者と被害者が生まれます。さらに、加害者と被害者のどちらにどれだけの非があるかによって過失割合が決まり、加害者から被害者へ支払われる損害賠償額は保険会社から支払われる保険金の金額も変わってきます。
加害者は被害者に対して誠意をもって対応するのが道理ではありますが、中には被害者に対して誠意のない加害者もいます。このような加害者と示談交渉を行った場合、なかなかスムーズに示談交渉が進まず示談が成立しません。
示談が成立しないと加害者から損害賠償金を受け取る事ができませんので、そういう場合には被害者請求を行う事で示談成立前に保険金などを受け取ることが可能になります。
3.保険会社が治療費の打ち切りや不利な条件での示談決着を迫る場合
交通事故被害を受けて怪我を受けた被害者は、まずは怪我の治療に専念しなくてはなりません。被害者は通常、加害者が加入している任意保険によって治療費などを賄うこととなります。
被害者が加害者の保険を利用して怪我の治療をするのは当然のことですが、注意しなくてはならないのが、保険会社による治療費の打ち切りです。
また、被害者にとって不利な条件で示談を迫ってくる場合もあります。
こうした場合には、被害者自ら被害者請求を行うことで、治療費を引き続き受け取ることができたり、後遺障害の等級認定を受ける際には、被害者に有利に働きます。
4.被害者の過失割合が大きい場合
一般的には交通事故の被害者への保障は、加害者が行います。この際、加害者請求を利用しますが多くの場合は任意保険に加入している為、任意保険会社が一括請求を行います。
任意保険会社が一括請求を行ってくれれば、加害者の経済状況など関係なく被害者は保険金を受け取る事ができます。しかし、交通事故で被害者の過失割合が大きい場合は、任意保険会社から一括支払いがされないこともあるのです。
任意保険会社からの一括支払いがされないと、被害者は当面の治療費を自己負担しなくてはならなくなります。
それはさすがに厳しいので、そういった場合にも被害者請求に切り替えることで治療費などを自賠責保険から受け取ることができます。
被害者請求によって支払われる金額一覧表
死亡時の補償額、傷害による補償額、後遺障害による補償額の3つを解説します。(参照:自動車総合安全情報)
項目 | 内容 |
---|---|
支払限度額 | 被害者1名に付き3000万円 |
葬儀日 | 60万円(超える場合は100万円を上限として実費が補償されます) |
逸失利益 | 標準的な平均賃金に基づいて計算されます。 |
被害者本人の慰謝料 | 350万円 |
遺族の慰謝料 | 1名550万円、2名650万円、3名以上750万円 |
傷害による損害の補償額
項目 | 内容 |
---|---|
支払限度額 | 被害者1名につき120万円 |
治療費 | 実費 |
看護料 | 4100円/日(自宅介護は半額) |
雑費 | 1100円/日 |
交通費 | 実費 |
義肢等 | 50000円(最高) |
文書料 | 実費 |
休業補償 | 5700円/日(それよりも多い場合は19000円を上限に実額支給) |
慰謝料 | 4200円/日 |
後遺障害による損害の補償額
項目 | 内容 |
---|---|
支払限度額 | 4000万円(神経系統の機能などの著しい障害で常時介護を必要とする場合) |
第一級 | 3000万円 |
第二級 | 2590万円 |
第三級 | 2219万円 |
第四級 | 1889万円 |
第五級 | 1574万円 |
第六級 | 1296万円 |
第七級 | 1051万円 |
第八級 | 819万円 |
第九級 | 616万円 |
第十級 | 461万円 |
第十一級 | 331万円 |
第十二級 | 224万円 |
第十三級 | 139万円 |
第十四級 | 75万円 |
逸失利益 | 障害等級に従って算定 |
慰謝料 | 常時介護第一級1600万円、第二級1163万円 |
それ以外 | 等級に従って1100万円~32万円 |
被害者請求から自賠責保険を貰えるタイミング・時期
被害者が自分で自賠責保険会社へ保険金支払を求める被害者請求ですが、実際に請求を行った場合にはどれくらいで保険金を受け取る事ができるのでしょうか。
被害者請求をするということは、加害者の対応が悪かったり示談交渉がスムーズに進んでいなかったり、とりあえずすぐにでも怪我の治療を行う為の費用などを手に入れたいという場合が多いです。
ですから、被害者請求を自分で行った場合に一体どれくらいの期間で保険金を受け取ることができるのかというところは非常に気になります。
そこで、被害者自ら被害者請求を行った場合に手続きをしてから実際に保険金を振り込んでもらうまでにどれくらい時間がかかるか見ていきます。
通常は1ヶ月以内!遅くても1ヶ月~2ヶ月程度で支払われる
被害者みずから被害者請求を行った場合、保険金が実際に振り込まれるまでの期間は必要書類を提出してから1ヶ月以内、遅くても1ヶ月~2ヶ月程度で支払われます。
ただ、この1ヶ月~2ヶ月というのはあくまでも被害者請求の手続きから審査がスムーズに運んだ場合です。交通事故の内容次第によってはそれ以上かかるケースもありますので、絶対に2ヶ月以内に支払われるとは限りません。
ちなみに任意保険会社からの支払いの場合、つまり加害者請求の場合は3ヶ月から1年程度かかるともいわれており、被害者請求に比べて保険金が支払われるまでにはかなり時間がかかりますので、早く保険金を手に入れるには被害者請求の方が向いています。
被害者請求の前に知るべき注意点&すぐやるべき2つのこと
交通事故で被害者請求を行うのは、加害者請求に比べると少ない例となります。特に任意保険に加入している方が多い現在ですので、加害者請求すら自分で行うことは少なくなっています。
しかし、示談交渉の状況であったり、加害者の態度次第では被害者自ら被害者請求を行わなくてはならない場合も出てきます。
そうなった場合、被害者請求を行うのはいいのですが事前に知っておかなければならないことや、被害者請求を行うにあたって注意しなくてはならない点がいくつかあります。
被害者請求を行う場合には、これらの注意点などをしっかり把握した上で行わなければなりません。
【注意1】被害者請求を行てもすぐに賠償金は支払われない
加害者請求を行う場合は、まず初めに被害者に対して損害賠償金を支払ってから、その領収書などを提出しなければ保険金を受け取ることはできません。
よって、示談が成立していない時点では加害者請求で保険金を受け取ることができないという事になります。しかし、被害者請求を行えば示談が成立していなくてもお金を受け取ることはできます。
ただし、ここで誤解してはいけないのが、被害者請求をすれば示談が成立していない時点でも通常通り損害賠償金を満額受け取れるということではないという点です。
基本的に損害賠償金は示談成立後でなければ受け取ることはできないのです。
【注意2】支払いは示談・和解が成立した場合、損害賠償金額が確定した段階
被害者請求による自賠責保険会社からの損害賠償金支払いは、原則として示談が成立した後、あるいは裁判が確定した後になります。
加害者請求は示談成立後、被害者へ支払った損害賠償金の領収書が必要になりますのでさらに遅くなりますが、被害者請求の場合は示談成立後すぐに支払ってもらうことができます。
ただし、被害者は交通事故で怪我を負っている場合もあります。怪我を負っている場合は治療も行わなくてはならず治療費が必要となりますので、別の方法で当面の治療費のみを先払いしてもらう事もできます。
【支払いまでの対策1】仮渡金を利用する
被害者請求は注意点2でもご説明しました通り、基本的には加害者と被害者の間で示談が成立するなどしていなければ損害賠償金の支払いは行われません。
しかし、交通事故の被害者は事故で負った怪我の治療も同時に進めなくてはいけません。そうなると治療費が必要となりますが、損害賠償金が支払われないと治療費を自己負担することになってしまいます。
そうならない為に被害者は加害者の加入している保険会社に対し治療費に充てる為の仮渡金を請求し、あとから清算することが可能なのです。
仮渡金ってなに?
仮渡金とは、交通事故の被害者が治療費に充てる為のお金です。通常であれば加害者からの損害賠償金であったり、加害者が加入している任意保険会社からの保険金などを被害者の治療費に充てることになります。
しかし、示談が成立していない場合などは、被害者が加害者の保険会社へ直接申請をして仮渡金を受け取ることができます。
仮渡金は被害者の傷害の程度や死亡した場合などによって金額が違います。怪我の場合は傷害の程度によって5万円から40万円までの仮渡金が支払われます。
もし被害者が死亡してしまった場合には、死亡者一人につき最大290万円の仮渡金が支払われます。
【支払までの対策2】被害者自身の健康保険を利用して治療する
交通事故で被害者となった場合、加害者の任意保険や加害者からの損害賠償金で治療費を賄う事になります。しかし、病院で治療を行う際は必ず自身の健康保険を利用して治療しましょう。
健康保険を利用して治療をすると受け取れる保険金や損害賠償金が減ってしまうのではと考える方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
交通事故ではたいてい被害者にも何らかの過失がありますので、被害者側にある過失割合の分については自己負担となります。
加害者側の過失分しか損害賠償金は請求できませんので、もし治療に健康保険を利用しないと、健康保険を利用した場合と比べて多く治療費を払ってしまう事になるのです。
事故後の簡単な流れ
事故にあってしまった後の流れですがまず治療を優先しなくてはいけません。場合によっては加害者との示談がなかなか成立しなかったりしてすぐに損害賠償金を受け取れないこともありますが、そういった場合はまず被害者側で治療費を一旦負担します。
負担することが厳しい場合は被害者請求で加害者の保険会社から仮渡金をもらって治療費に充てることができます。
被害者請求の本請求手続きであったり、後遺障害認定の請求手続きは後からでも行うことができますので、先に治療を進めていても問題ないのです。
被害者で過失がない場合も健康保険を利用して!
交通事故では加害者と被害者にそれぞれ過失の割合が決まります。自分の車が停車しているところに一方的に加害者に突っ込まれた場合などを除いては、ほとんどの場合が被害者にも少なからず過失割合があるものです。
こうした場合、過失相殺といって被害者側の過失割合分が、損害賠償請求額から減額されることになります。この場合、減額されて不足した治療費は自己負担金となりますので、健康保険を利用しないと損をすることになります。
よって、確実に被害者に過失が一切ないという場合以外は、怪我の治療は必ず健康保険を利用した方がよいのです。
健康保険利用は被害者本人と保険会社の負担が減る
過失相殺の事を考えると、交通事故の被害者が病院で怪我の治療を行う場合、健康保険を利用するべきといえます。健康保険を利用すれば、被害者本人と保険会社の負担が減ることとなるからです。
しかし、このとき病院によっては健康保険を適用した治療を嫌がる病院もあるのです。なぜこのような事が起きるかというと、病院としては健康保険を利用せずに自由診療で治療を行った方が高額な請求を行えるからという事情があります。
しかし、基本的に健康保険が利用できない病院はありませんので、このような対応をする病院は良心的ではないと判断し、利用しないことをおすすめします。
健康保険を利用しないことは、被害者の経済的負担も大きくなるだけでなく、怪我の治療を任せるにあたって利益のみを追求する病院では安心して任せることができません。
交通事故の怪我の治療は誠意ある対応をしてくれる病院を選びましょう。
具体的な被害者請求の流れと方法
具体的な被害者請求の流れは、まず必要となる書類を集めます。必要書類は病院からの書類であったり、事故の状況をまとめた書類などかなり多数となります。
また、被害者請求には時効というものがあって時効を超えてしまうと被害者請求の請求権を失効してしまい、保険金を受け取ることができなくなってしまいます。
よって、被害者請求は書類集めや手続きが大変ですが、必ず時効前に請求をかけなくてはならないのです。
必要な書類を揃えて自賠責保険会社に書類を送る
被害者請求を行うには、必要書類をそろえて自賠責保険会社へ送らなくてはなりません。被害者請求となる書類は加害者が加入している任意保険会社に連絡すれば、交通事故証明書なども合わせて一式手に入ります。
必要書類を手に入れたら、それをまとめて自賠責保険会社へ送付します。
自賠責保険会社は被害者から受け取った被害者請求に必要な書類を今度は損害保険料率算出機構にある自賠責損害調査事務所というところに提出するのです。
この自賠責損害調査事務所というところが、提出された書類を元に事故の調査を行って、事故の過失割合であったり被害者の怪我の状況から後遺障害認定が必要かなどを決めます。
請求権の時効とは?
自賠責保険の被害者請求には時効というものがあります。この時効を超えてしまうと、被害者請求の請求権を失ってしまうこととなり、被害者請求を行っても保険金を支払ってもらう事ができません。
被害者請求の時効は3種類あります。まず一つ目が被害者が怪我を負った場合で、この時には事故が起こった日から3年以内に請求をかけなくてはいけません。
次に被害者がもし死亡してしまった場合は、被害者の死亡した日から3年以内の請求が必要です。
また、被害者が死亡はしなかったけれど交通事故で怪我を負ってしまい、治療を続けたものの完治せず後遺障害と認定された場合は、病院で症状固定された日から3年以内の請求が必要となります。
自賠責保険に対する請求権時効とは?
自賠責保険に対する請求権には時効があり、時効が成立してしまったあとは自賠責保険へ保険金の請求を行うことができなくなります。
また、後遺障害の認定をされた場合の等級について不服だったり、後遺障害の認定そのものをされなかったという場合にも、異議申し立てができなくなる場合があるのです。
こうなってしまうとそれ以上交渉をする余地がなくなってしまうので、被害者請求を行う場合にはあらかじめ請求権の時効を確認しておき、時効を超えてしまわないように注意が必要です。
もしも何らかの事情で請求権の時効を中断したい場合は自賠責保険会社へ直接連絡して中断の相談をするとよいでしょう。
任意保険会社との交渉は”損害賠償金の支払いを交渉のカードにさせない”
前にもお話ししましたが、自分が交通事故の被害者となった場合には、加害者が加入している任意保険会社と示談交渉を行うこととなります。
加害者の任意保険会社はできるだけ支払う保険金の金額を抑えたいと思うので、被害者に不利な交渉を持ち掛けてくることもあります。
被害者の立場としては早く保険金を支払ってもらわないと自分の怪我の治療費を自己負担しなくてはならないので経済的に厳しい状況になります。
そんな状況で任意保険会社は損害賠償金の支払いを交渉のカードに持ってくることがありますが、仮渡金などの制度も利用できますので決して被害者が不利な交渉に乗ってはいけません。
被害者に後遺障害があっても任意保険会社にメリットなし
加害者の任意保険会社は被害者に後遺障害があるとわかれば、早急に示談にして損害賠償金を支払い、交渉を終わらせようとしてきます。
万が一後遺障害の等級認定をされてしまうと、そのあとで任意保険会社が支払う損害賠償金が高額になる恐れがあるからです。
しかし、それはあくまで加害者の任意保険会社側の都合なので、被害者は決してそういった相手側の都合に合わせた交渉に合わせる必要はありません。被害者は後遺障害がある場合適切な等級認定を求める事が必要です。
すぐに示談するのは早い!後遺障害や症状固定が後からわかるケースも
交通事故で受けた被害の状況で判断し、すぐに示談を求められるケースが多くなりますが、被害者は決してすぐに示談にしてはいけません。
なぜかというと、交通事故で受けた際の被害状況だけではすべてを判断できないからです。例えば怪我を治療していく中で、怪我が完全に完治しない場合もあります。
治療を続けても怪我が完治せず障害が残るとなれば、医師に症状固定してもらって後遺障害の等級認定を請求することもあります。
後遺障害等級の認定をされると、等級に応じてさらに受け取れる損害賠償金額が上がりますので、事故当初の被害状況とは変わってくるのです。
加害者の任意保険会社はあくまで加害者の味方
交通事故に遭った場合で、加害者も被害者も任意保険に加入しているのであれば、示談交渉などはお互いの任意保険会社に任せれば問題ないでしょう。
しかし、仮に被害者側に過失がない状態での交通事故で、相手の任意保険会社と直接示談交渉を行う場合は注意が必要です。
加害者の任意保険会社はあくまで加害者の味方ですから、加害者が有利になるように話を進めてきます。
でも交通事故においては被害者が守られなければならないので、被害者が正当に治療を受け、損害賠償金を受け取る事ができるよう交渉しなくてはなりません。
加害者自ら被害者請求をお願いしてくるケースもある?
加害者は基本的に自ら被害者へ損害賠償金を支払い、加害者請求を行います。任意保険に加入していた場合は、任意保険会社が賠償金の肩代わりをしてくれます。通常はこの2パターンのいずれかになります。
しかし、場合によっては加害者側から被害者へ、被害者請求をするよう依頼されることもあります。
被害者請求は非常に手間がかかるので本来は加害者が加害者請求を行うべきですが、例えば加害者が一旦被害者に支払う損害賠償金の負担をすることが経済的に難しい場合などは、加害者から被害者に被害者請求を依頼してくることもあるのです。
道理としては間違っていますが、経済的理由で致し方ない場合には、このように加害者から依頼をされて被害者請求を行うということもあるのです。
基本的に加害者が賠償金を先に支払うのが道理
交通事故では加害者は被害者に対して誠意をもって対応するべきで、それが道理というものです。ですから、加害者はまず被害者の怪我の治療を優先して治療費に充てる為の損害賠償金を支払わなくてはなりません。
もちろん自賠責保険は被害者が被害者請求を行う事もできますが、被害者請求を行うには非常に手間がかかってしまうので、よほど必要に迫られない限りは加害者請求の前に被害者請求を行うということはないのです。
実際に交通事故の現場でも、ほとんどの場合が加害者請求を行っています。ただし、加害者が任意保険に加入している場合は任意保険会社が賠償金の肩代わりをし、加害者請求も代理で行う事になります。
経済的に困窮していて被害者に被害者請求をお願いする加害者も
通常であれば交通事故の加害者が、自ら被害者に対して損害賠償金を支払って加害者請求をかけるという流れになります。
しかし、加害者請求を行うには一旦被害者への損害賠償金を自己負担しなければならず、資金力が必要となります。
もし加害者にその資金力がない場合には、被害者に被害者請求を行う事をお願いするという場面も出てきます。しかし、被害者請求を行うには非常に手間がかかりますので、必ずしも引き受けなければならないものではありません。
ただし、加害者から損害賠償金を受け取ることができないと治療費などを被害者が負担しなければならなくなり、結局被害者請求をするという事もあります。
被害者自ら任意保険を使える場合は保険会社に連絡しよう
交通事故の被害者は、過失割合によっては自ら加入している任意保険を利用して治療費などを捻出することができる場合があります。特に被害者側にも過失がある場合や障害保険に加入している場合です。
こうした保険を利用することで、加害者から受け取る損害賠償金以外にも受け取れる保険金が増えるので、治療などに使えるお金が増えます。
ですから、被害者自ら任意保険などに加入している場合は、一度保険会社へ連絡して確認してみることが大切です。任意保険は連絡をしなければ補償を受けることはできません。
まとめ
自賠責保険は、交通事故の被害者を守る為の保険です。一般的には加害者請求を利用して被害者が補償を受ける流れになります。
しかし、加害者が任意保険未加入だったり、示談交渉がうまくいかなかった場合などは、加害者に任せるのではなく被害者請求を利用して示談成立前に治療費などに利用する仮渡金を受け取ることも可能です。
また、被害者請求は自ら手続きを行うにあたり手間がかかりますが、自分のペースで保険金の受け取りを進められたり後遺障害認定の申請をするにあたっては、有利に進めることもできます。
示談交渉がスムーズに進まなかったり、加害者側の経済的理由で加害者請求が行われない場合なども、被害者請求を利用することで被害者のペースで保険金の受取が可能です。
ただし、交通事故の内容によっては被害者側にも過失が認められ、過失相殺となることもあり得ますので、怪我の治療を行う際は必ず健康保険を利用して治療することをおすすめします。
そして、被害者側にも過失がある場合で、自ら任意保険に加入している際には、治療費などを自分の任意保険からも受け取れることがあります。
加害者の任意保険からの賠償金だけではなく、被害者自ら加入している任意保険も利用すれば、その分多く保険金を受け取ることが可能になります。