ひき逃げ(轢き逃げ)で捕まったら即実刑?罰金から罰則・保険適用まで
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ひき逃げの発生件数は年単位で見た場合、減少傾向にありますが、まだ決して少ない数とはいえません。
ひき逃げとは自動車で人を負傷・死亡させ、適切な処置をせずに逃走することですが、よく聞くのは加害者ドライバーがパニックを起こして冷静な判断ができず現場を去ってしまったといったケースです。
もしひき逃げをしてしまったらどうなるのか。端的にいえば、ひき逃げは悪質な犯罪行為であるため、厳しい処罰を受けることになります。具体的にどういうものかを今から見ていきましょう。
ひき逃げ(轢き逃げ)はどんな罪になるのか?罰則・罰金について
ひき逃げとは車で誰かをひき、必要な処置をせずにそのまま逃げてしまう行為です。ひき逃げという言葉は法的な用語ではありませんので、どのような罪にあたるのかを見てみましょう。
交通事故で死亡・負傷させたら「過失運転致死傷罪」
これはそもそもの話ですが、ひき逃げという行為自体の前に自動車で誰かを負傷させたり死亡させたりしたら、それだけでも罪に問われます。
不注意な運転で人を死傷させた場合には「過失運転致死傷罪」となります。
- 7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円以下の罰金
もし無免許であれば「10年以下の懲役」とさらに罪が重くなります。
「過失運転致死傷罪」の点数
この場合の点数については事故状況によって細かく変わります。
例えば運転者の一方的な不注意により死亡事故が起きたときには
- 20点/免許取り消し
となりますし、同じく運転者の一方的な不注意により治療期間15日以上30日未満の軽傷事故が起きたら
- 6点/免停(30日~)
となります。その他にも具体的な状況に応じた様々な点数設定がされています。もちろんこれらはひき逃げ自体の点数を除いたものになります。
飲酒運転のひき逃げ(轢き逃げ)など「危険運転致死傷罪」の可能性も
不注意な運転で人を死傷させた場合には「過失運転致死傷罪」となりますが、飲酒運転などによる危険な状態で人を死傷させた場合には「危険運転致死傷罪」となります。
- 負傷:15年以下の懲役
- 死亡:1年以上の有期懲役
死亡については1年以上の有期懲役となっており、「有期懲役」とは最大20年の懲役のことです。
ひき逃げ(轢き逃げ)自体は「救護義務違反」や「報告義務違反」
交通事故が起きたとき、ドライバーは運転をやめ、負傷者を救護しなければならないという法的な義務があります。
これを守らなかった場合には「救護義務違反」となり、これがいわゆるひき逃げ自体の罪となります。
同じようなものに交通事故の報告を警察にしなかった場合の「報告義務違反」にもあたります。
- 救護義務違反:10年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 報告義務違反:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
刑罰は加算ではない
ここまでの説明で、ひき逃げ自体の罪と車で死傷させた場合の罪があるのが分かりました。
日本の場合、複数の罪を犯した時にはそのすべての刑罰を加算していくものではありません。すべての罪で定められた刑の長期(「〇〇年以下」の部分)の合計を超えることがないようになっています。
2個以上の罪によって有期懲役・禁錮に処するときは、そのなかで最も重い罪の刑の長期を1.5倍したものを長期とすることになっています。
例えばひき逃げにより、「救護義務違反:10年以下の懲役」と「過失運転致死傷罪:7年以下の懲役もしくは禁固」の罪に問われたとき、この2つで最も重い罪は「救護義務違反」の方ですから、10年×1.5倍で最大で懲役15年となります。
初犯でも実刑?
ひき逃げは初犯でも実刑になるのか。
ひき逃げが無免許や飲酒運転、再犯など悪質のケースでなければ、初犯では基本的に執行猶予がついて実刑になることはありません。
また、状況が比較的軽いと見なされた場合、略式罰金になることもあります。
ひき逃げ(轢き逃げ)の点数は?
行政処分については、ひき逃げ(救護義務違反)の点数は「35点/免許取り消し(3年~)」となり、これは初犯の方からになります。
さらに、先に説明した「過失運転致死傷罪」なども加算されて処罰が決定されます。
ひき逃げ(轢き逃げ)で無傷の場合には?
仮に車にぶつかった人が無傷であっても、その状況は交通事故です。ドライバーは無事かどうか確認する義務がありますし、事故を警察に報告する義務もあります。
また、一見ケガをしていないように見えても、病院で診てもらわない限り分からない負傷というのもありますし、しばらく時間が経ってから症状が出るようなものもあります。
被害者が何もなさそうだからとその場を立ち去ることもひき逃げとなるので、その状況に応じた罪に問われます。
ひき逃げ(轢き逃げ)で気づかないケースは救護義務違反 ?
ドライバーがひいたことに気づかなかった交通事故でそのまま現場を通り過ぎてしまえば、ひき逃げになるのか。先ほど説明したようにひき逃げ自体の罪とは、交通事故が起きたとき、ドライバーが運転をやめず、負傷者を救護しなかった場合にあてはまります(救護義務違反)。
また、交通事故を報告しなかった場合です(報告義務違反)。つまり、交通事故だと認識できていなければひき逃げにはなりません。実際、こういうケースで無罪になったものもあるそうです。
もっとも、「本当に気づかなかったのか」「気づけなかったのか」という捜査は徹底して行われるため、その状況次第でどのような形で責任を問われるかは変わってくるでしょう。
また、被害者側に負傷や死亡があった場合、ひき逃げ自体の罪とは別に、不注意な運転で人を死傷させた場合の「過失運転致死傷罪」などに問われます。
ひき逃げ(轢き逃げ)の検挙率は95%?逃げても逃げられない
先の「ひき逃げで気づかない場合」の話と少し関係していますが、現在、街頭に防犯カメラが設置されていたり、車にドライブレコーダーが搭載されていたりするなどして、交通事故の状況を捜査しやすくなっています。
そのため「ひき逃げに気づかなかった」と嘘をついても捜査によってバレる可能性はかなり高いですし、同じくひき逃げしても検挙される可能性はかなり高いです。
ひき逃げによる死亡事故では検挙率は約95%、重傷事故では約70%らしいです。
加害者が引き返しすケースも。ひき逃げ(轢き逃げ)のニュース
6日午後11時55分ごろ、横浜市神奈川区菅田町の市道で「男の人が倒れている。車にひかれたようだ」と、乗用車で通りかかった男性から、近くの神奈川署菅田交番に届け出があった。
署によると、倒れていたのは同区三ツ沢東町、無職男性(69)で、搬送先の病院で死亡が確認された。署は7日、発生から約20分後に左前部が損傷した軽自動車で現場に現れた同区菅田町、配送業の男(31)を自動車運転処罰法違反(過失致死)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕した。
署によると、同容疑者は「間違いない」と容疑を認めている。
ひき逃げをしてそのまま逮捕されるまで逃亡するケースもあれば、事故後に現場に戻ってくるケースもあるようです。
人をひいたことでパニックになって逃げてしまったが、しばらくして冷静さを取り戻し事故現場に引き返すということでしょうか。
しかし、ニュースでこういうケースを見ていると、戻るまでに長い時間が経過していることが多いです。もしすぐに救護をすれば、最悪でももっと早くに戻れば、被害者側が死亡せずに済んだ事故もあるのでしょう。
車で死亡事故を起こして逃げたとして、大阪府警は4日、大阪府東大阪市島之内2丁目、自称会社役員の三島博文容疑者(52)を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)と道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕し、発表した。「事故とは思わなかった」と容疑を否認しているという。
河内署によると、逮捕容疑は3日午後5時半ごろ、東大阪市吉田4丁目の府道交差点で乗用車を右折させた際、対向車線を直進してきた大学生の溝河成駿さん(19)=大阪府摂津市庄屋1丁目=運転のバイクと接触し、そのまま逃走したというもの。溝河さんは転倒し、搬送先の病院で死亡が確認された。三島容疑者は事故の約40分後、現場に戻ってきたという。
このニュースでは「事故とは思わなかった」と容疑を否認しています。しかし約40分後に現場に戻ってきているので、どこかの時点で事故を起こした可能性がよぎり、確認するように戻ってきたのかもしれません。
もちろん本当に人をひいたことに気づかなかったとしても、被害者が死亡しているので少なくとも過失運転致死傷罪には問われます。
道路交通法改正によるひき逃げ(轢き逃げ)の厳罰化でどう変わった?
飲酒運転などの悪質な交通事故が社会問題化し、この十数年のうちに人身事故の厳罰化が推し進められてきました。
ひき逃げに関しても、2007年9月19日の「道路交通法」改正、施行によって現在のような厳しい処罰が設けられました。
ひき逃げ自体の罪を「救護義務違反」といいますが、改正前と改正後でどう変わったのか比較すると、
- 改正前:5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 改正後(現在):10年以下の懲役または100万円以下の罰金
となっており、かなり罪が重くなっているのが分かります。
ひき逃げ(轢き逃げ)の交通事故では自動車保険は適用外?
ひき逃げの際、自動車保険の適用はどうなるのか。これに関しては自分が被害者になった場合に気になる事柄だと思います。
というのも、加害者が逮捕されなければ損害賠償を請求する相手が不在だからです。こういうケースでは自分の加入する自動車保険は役立つのでしょうか。
また、加害者が逮捕された場合、補償や賠償に関してどういう手続きをとるのでしょうか。
A.【加害者が不明】でひき逃げされた場合の補償
まずは自分がひき逃げされ、加害者が分からない交通事故から見ていきましょう。この場合、加害者に対して損害賠償請求ができません。また、加害者が判明しても、相手が無保険など支払い能力がない場合も同様です。
こういうケースでは基本的に次の2つから補償の手続きを行うことになります。
- 政府保障事業
- 任意の自動車保険
今からこの2つについて見ていきますが、その前に「自賠責保険はどうなっているの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思うので、先にこれについてだけ簡単に触れておきます。
「自賠責保険」はひき逃げした相手が不明だと請求できない
自賠責保険は車を所有する者すべてに加入が義務付けられ、強制保険ともいわれています。
補償の対象は「対人のみ」になります。破損した車や建物に対する補償などは受けられません。補償額については死亡の限度額3千万円、後遺障害の限度額4千万円、傷害の限度額120万円までの範囲となります。
加入している自賠責保険の補償は自分に対して使うことができません。あくまでも、相手方への補償です。自分が被害者になった場合には、相手側の自賠責保険に請求する(被害者請求)という手続きを行うことで、補償を受けられます。
つまり、ひき逃げで相手が不明であれば、請求先が分からないため、自賠責保険の補償は受けられないということです。
1.政府保障事業
ひき逃げだと自賠責保険の補償が受けられないため、政府は「政府保障事業」という制度を設立しています。
これは要するに、ひき逃げで自賠責の補償を受けられない被害者のための救済制度です。そのため補償範囲についても、
- 傷害:限度額120万円
- 後遺障害:限度額4,000万円
- 死亡:限度額3,000万円
といったように自賠責の補償内容と同じになっています。
ちなみにこの制度は、被害者補償の最終手段といえるもので、
健康保険や労災保険等の他の社会保険の給付(他法令給付)や本来の損害賠償責任者の支払によっても、なお被害者に損害が残る場合
に補填してくれるものです。
2.任意の自動車保険(人身傷害保険、車両保険、無保険車傷害保険など)
任意保険の補償については、加害者が不明であっても補償が適用されます。
- 人身傷害保険
- 車両保険
- 無保険車傷害保険
任意保険のこれらの補償によって保険金が支払われます。一つずつ見ていきましょう。
人身傷害保険
ひき逃げされて負傷した場合など、「人身傷害保険」に加入していれば補償が受けられます。
人身傷害保険は「記名被保険者およびその家族が、契約車や他の車に搭乗中、そのほか歩行中などの自動車事故で死亡、負傷した場合」の補償です。
「歩行中の交通事故」などでも適用されるので、ひき逃げの際にも利用できます。
ただし、「人身傷害保険」の補償範囲はプランによっては「歩行中は補償の対象外」の場合もあるので、契約内容のチェックが必要です。
保険金は3,000万円から無制限まで補償範囲は広く、言うまでもなく「政府保障事業」よりも充実した補償を受けることができます。
車両保険
ひき逃げの状況によっては自分の車も損害するケースもあるでしょう。繰り返しになりますが「政府保障事業」は「対人」のみ、つまり被害者の身体の損害に対する補償です。
ひき逃げによって車両が破損し、なおかつ加害者が不明の場合、任意保険の「車両保険」に入っていれば車への補償をしてもらえます。
ただし車両保険を利用すると保険の契約更新の際、等級が下がってしまい、保険料が高くなってしまう可能性があります。
無保険車傷害保険
無保険車傷害保険とは「相手が自動車保険に加入していないなどの理由で十分な補償が受けられない場合」の補償です。
ひき逃げの加害者が分からない場合、あるいは見つかっても相手に補償能力がない場合、この「無保険車傷害保険」に入っていれば補償してもらえます。
- 補償の対象:死亡もしくは後遺障害を負った場合に限る
気をつけなければいけないのは、「無保険車傷害保険」の補償は、事故で死亡や後遺障害を負った場合の重い損害が対象です。ケガや完治した傷害に対しては補償の対象外です。
B.【加害者が逮捕】でひき逃げされた場合の補償(損害賠償、慰謝料、示談金など)
もしひき逃げされて加害者が分かった場合には、一般的な交通事故と同じように損害賠償の請求をします。治療費や慰謝料、車両の修理費など様々ですが、それらの費用は相手側の自動車保険から補償されます。
ちなみによく耳にする「示談金」とは加害者(相手の保険会社)が被害者に支払う損害賠償金のことをいいます。先に挙げた慰謝料や治療費、車両の修理費、休業損害などすべての損害賠償金を合わせたものが示談金です。
よくどれくらいの示談金になるのか相場が気になる方がいらっしゃいますが、これは事故状況、損害の程度など様々な事情をもとに、こちら側と相手側で話し合って決められます。
慰謝料については「必ず知っておきたい!交通事故の慰謝料の種類&支払い基準は3つある」を、自賠責の損害賠償金については「今さら聞けない!自賠責保険(強制保険)とは何か分かりやすく徹底解説」などの詳細記事を参考にしてください。
もし相手が保険に入っていなかったり支払い能力がなかったりするときには、先に説明した加害者が不明の際の補償の手続きを行うことになります。
まとめ
今回はひき逃げ(轢き逃げ)についての情報をまとめました。ひき逃げ(轢き逃げ)自体は「救護義務違反」という罪に問われ、「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」となります。
また、これとは別に交通事故で相手を死亡・負傷させた場合には「過失運転致死傷罪」、飲酒運転などによる危険な運転でのひき逃げでは「危険運転致死傷罪」となります。
ひき逃げでの補償については「加害者が不明」であるとき、政府保障事業や任意の自動車保険によって補償を受けることになります。
ひき逃げの加害者が判明した場合には一般的な交通事故と同じように損害賠償の請求する流れになります。