「老人は運転しない方がいい」高齢ドライバーによる高速道路の逆走事故が止まらない
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年齢に関わらず、一方通行の道路標識をうっかり見逃して、前方から走ってくる車とぶつかりそうになったことやクラクションを鳴らされて注意されたことなら、経験者も少なくないかもしれません。
不慣れな土地ではよくあることです。時には目的地までの時間短縮のためか、故意に逆走しているような車を見かけることもあります。言うまでもありませんが、逆走というのは正面衝突事故を引き起こす可能性の高い危険行為です。
これがもし、高速道路で逆走車両と出くわしてしまったらと想像するとさらにぞっとします。高速では時速80キロや100キロというスピードで走っています。突如、前方から車が向かってきたらどうでしょう。想定外のことにパニックを起こしてしまいそうです。
暴走車を回避しようと急なブレーキや車線変更は後方の車に追突される危険もあります。近年、高齢ドライバーによる交通事故が増加傾向にあり、この「逆走事故」も問題視されているケースの一つです。
シニアドライバーの交通事故が社会問題化されるほど悲惨な事故のニュースは絶えません。こういう報道に触れる度、どうしてこんな事故が起きてしまうのか?とほとんど不思議にさえ感じる方も多いでしょう。
実際「高速で逆走」というのはあまりに異常事態です。しかしこの異常が平常化してしまっているのが現状です。
どうやって起こる?高速道路の逆走事故の発生状況
高速道路の逆走事故は具体的にどこで、どのような形で生じているのか?年齢層は何歳くらいが多いのか?これから国土交通省の「逆走事案のデータ分析結果」というデータを基に逆走事故の発生状況について詳しく見ていきましょう。
逆走した運転者の年齢層は?高齢ドライバーの逆走事故率
高速道路で逆走したドライバーの年齢について、上のデータにより大部分が高齢の方だというのが分かります。割合順で並べると以下のようになります。
- 75歳以上:45%
- 30~65歳未満:25%
- 65~75歳未満:22%
- 30歳未満:8%
- 不明:0.6%
このデータは30代、40代、50代といったある一定の年齢層に区分けはされてません。参考表にあるように免許の保有者が最も多いのは「30~65歳未満」という幅の広いカテゴリーですが、逆走したドライバーの割合は全体の25%です。
やはり注意を引くのは「75歳以上」。この年齢層の免許保有者は全体のたった6%しかいません。これを踏まえて逆走事故の割合が半数近いことを考えると「逆走事故は高齢ドライバーに特有の事故」と言い切っても過言ではありません。
高齢ドライバーの運転免許保有者数はどれくらいか?
「75歳以上」の運転免許保有者は全体の6パーセントといいましたが、具体的にはどれくらいの人数がいるのか少し触れておきましょう。
少し古いデータになりますが内閣府によれば、平成28年末時点での75歳以上の免許保有者数は約513万人で、これは当時の75歳以上の人口の約3人に1人が保有しているという数値らしいです。
この時点で、高齢化に伴って平成29年以降はさらに保有者数が増加すると推計されていました。事実その通りの推移をたどり、平成30年末の75歳以上の免許保有数は約564万人となり、今後も増加する見込みです。
繰り返しになりますが「75歳以上」の運転免許保有者は全体の6パーセントです。しかし、具体的な高齢ドライバーの数を見たとき、かなりの人数がいることが分かります。
また今は75歳以上のデータを見ていますが、65歳~75歳までの年齢層を合わせると、免許保有数も高速道路の逆走事故の割合にしてもかなり大きなものになります。
高齢者による運転免許の返納率はどれくらい?
2017年のデータによれば、75歳以上の運転免許保有者の4.7%が運転免許を返納しています。しかし、まだまだ不十分といえる値です。
近年では高齢者運転免許自主返納サポート制度など、高齢ドライバーの交通事故の増加をおさえるための取り組みが積極的に行われています。とはいえ、年齢層別の免許保有数を見てみると、
- 75歳~79歳:約337万人
- 70歳~74歳:約566万人
- 65歳~69歳:約734万人
- 60歳~64歳:約658万人
となっており、このなかでは「65歳~69歳」の年齢層が最も多いです。数年後には、高齢ドライバーといわれる年齢層の保有数はさらに増加するため、返納率がそれに伴って低下するかもしれません。
どこで逆走事故は起きているのか?
逆走の起きる現場は、約6割がインターチェンジやジャンクションというデータが出ています。
例えば高速の降り口に向かっている際、一方通行だと勘違いして誤って入口側の車道に入り込んでしまったりだとか、一般道から間違って高速道路に入ってしまい、一般道に戻ろうと降り口だと思って入ったのが実は反対側の車道だったとか、様々なケースが挙げられます。
逆走事故は意図的なのか?故意の場合も
故意の場合というのもあり、目的地のICを通り過ぎてしまったのに気づいて、慌ててその車道でUターンし、本来降りるはずだったランプに戻ろうとして逆走するというケースもあります。
正面衝突になった高速道路の逆走ニュース
12月1日、群馬県渋川市の関越自動車道で、車が少なくとも3キロ逆走して、対向車と正面衝突。運転していた80歳の男性が死亡し、対向車の男女2人も重軽傷を負う事故が発生した。
出典:YAHOO!JAPANニュース
この交通事故では関越自動車道で、80歳のドライバーが3キロの逆走をして正面衝突を起こしています。
逆走したドライバーが死亡したので詳細な動機は不明ですが、このような事故でしばしば共通しているのが、故意であろうが過失であろうが、事故が起きるまで車を止めない、あるいは止まらないような暴走をするということです。
逆走事故の過失割合
交通事故が起きたとき、その責任の割合が決められます。それを過失割合といいますが、では、逆走事故の場合の過失割合はどうなるのでしょうか。
一般的な交通事故の場合、どちらか片方にだけ全面的に責任がある、つまり「100:0」のケースはそれほど多くはありません。これは両者の注意や対応が十分だったら事故は起きなかったというような場合が少なくないためです。
逆走事故については基本的に「100:0」となります。当然といえば当然ですが、ふつうの交通状況のなかで起こる事故とは異質なもので、進行方向に走っている車には過失はありません。
ただし、単に逆走しているから全部の責任があるとはなりません。事故の状況によっては、こちら側の対応が不十分だったというケースもあるでしょう。
極端な話ですが、遠くから逆走してくる車に対して、同じ車線を走りながらクラクションを鳴らしてどうにか止めようとし、結果、正面衝突になった場合などではこちらにも過失があったと見なされる可能性があります。
なぜ止まらない?若者にはない逆走の動機「認識なし」が約3割
故意・過室ともに逆走の大部分が、降り口を通り過ぎてしまったとか、一般道から間違って高速道路に入ってしまったなどの「道を間違えてしどろもどろした」という理由が多いようです。
しかし故意・過室だけなく「認識なし」で逆走したケースも多いです。過失または故意などで逆走してしまったのは発生件数の約7割ですが、「最後まで逆走の認識なし」が約3割を占めています。これは若者にはない、高齢者特有の逆走の状況だと言えるでしょう。
これは認知症の疑いがあるケースで、自分が逆走している自覚がない、場合によっては高速道路を走っていることすら認識できていないこともあります。
逆走事故の高齢ドライバーには自動車保険が適用されるのか?
逆走事故を起こした高齢ドライバーには自動車保険が支払われるのか。
まず、一般的にどの保険会社も「運転者が故意に事故を起こしたようなケース」では保険を支払いません。そのほか、重大な過失の場合でも保険が適用外になるケースもあります。
認知症だった場合も、補償の対象にならないのが基本です。また、逆走事故でよく聞く「自分がどこで、何をしているか自覚できていない」ような心身喪失の状況でも補償されないらしいです。
これらは逆走したドライバーの身体や車への補償についてですから、被害者側への支払いは適用されるケースもあります。
「車は交通手段」高齢ドライバーが運転免許を手放せない事情も
こういう事故を起こす可能性のある方が普段から車を運転していることを想像すると、逆走事故ばかりでなく、その他の交通事故の危険も思った以上に身近にあるのだという気持ちになります。
しかし、感情的に高齢ドライバーに対して疑心を募らせるだけでは何も変わりませんので、今後よりいっそう、高齢ドライバーへの対応を社会全体で考える必要がありそうです。
よく言われる話ですが、地方では車がないと生活が不自由になるため、高齢の方も必要性から車に乗っているといった状況もあります。
先に挙げた逆走ニュースのドライバーも、免許所の返納をすすめられて「他人の世話になりたくない」というような話をしていたそうです。免許の返納は生活スタイルの大きな変更といってもよく、返納率がなかなか高くならない事情も分かる気がします。
しかし、高齢者による悲惨な交通事故の増加を抑止するために今後よりいっそう、高齢ドライバーに制限をかけていく流れが強まるでしょうし、それは社会全体にとって不可欠なことであるように思います。
もちろん、様々な面から高齢者の方がスムーズに車の運転をやめることができるような環境作りを周囲がしていかなければなりません。
公共サービスの充実といった行政や地方自治体レベルから、高齢化に伴う家族の在り方やライフスタイルに至るまで、これからより良く改善していく必要のある課題がたくさんあるのでしょう。