交通事故で適用される法律「自賠法」と「民法」とは?不法行為なる?
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交通事故が起きた時には、加入している任意保険の会社にすべてを任せてしまう、と言う人も少なくありません。しかし、それだけでは対応不足になるケースもあるのです。また、事故の内容によっては、保険会社が介入できないこともあります。
そのため交通事故の被害にあった時に損をしないためにも、ある程度は法律の知識を持っておいた方が良いでしょう。どんな法律が適用されるのか、その内容はどうなっているのかを知っているだけでも随分と違ってきます。
ここでは自分が被害者になった時のことを主に、どのような法律になるのかを詳しく解説していきます。特に民法と自賠法の2つはしっかりと把握しておくべきでしょう。最終的には専門家である弁護士に任せるとしても、自分で知っておいて損はありません。
交通事故は民法の不法行為にあたる
交通事故にも様々な法律の適用がありますが、賠償責任については民法の規定が適用されます。それは交通事故というのは、民法の不法行為に該当するからです。この不法行為の責任を問うものが、民法の第709条にあたります。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
不法行為とは故意または過失によって他人の持つ権利や、法律上で保護される利益に対して損害を与えることです。そして、この損害を賠償する責任を負うとするのが、不法行為責任になります。
損害賠償は金銭をもって行うということも、決められているので覚えておきましょう。
端的にお伝えすると、交通事故の加害者は被害者に対して賠償の責任があるという形です。ただ1つ注意したいのが、被雇用者が業務中に事故を起こした時には、その雇用者に責任があるとする民法の715条の決まりもあります。
つまりトラックの運転手が事故を起こした時は、その雇用者である会社に責任を問えるという仕組みになります。
人身事故は自動車損害賠償保障法
民法の規定では損害賠償を求めるのに、被害者側が加害者の責任を立証しなくてはいけません。この条件の中には、被害者が立証するには厳しいものもあるのです。
そのため被害にあったものの立証ができずに損害賠償の請求ができず、泣き寝入りをするケースもありました。
そうした状況を鑑みて被害者を救済する目的で作られたのが、通称自賠法です。正式には自動車損害賠償保障法になります。この自賠法では被害者が有利になるような取り決めがあり、そのおかげで賠償請求がしやすくなったのです。
自賠法が適用とされるのは、人身事故のみになります。物損事故については対象外になるので、十分に注意しましょう。また、自動車の事故でなければ対象になりません。この点も覚えておくのをお勧めします。
民法の不法行為責任は『4つのポイント』に注目
先ほどお伝えしたように交通事故の被害者が加害者に対して、その責任を問うのであれば、不法行為責任を立証しなくてはいけません。この立証ができなければ、不法行為責任に問えなくなり、賠償請求ができないからです。
ただ立証をしろと言われてもなにを、と思われる人も多いでしょう。その点はしっかりと法律に記載されています。被害者側が立証をするには、主に4つの点が必要になるのです。この4つについてスポットをあてていきましょう。
これらが大きなポイントになってきます。
1.故意又は過失によること
加害者が過失または故意に起こした事故ではない場合、その責任を問うことができません。そのため故意か過失によって交通事故が起こったと立証することが、最低限の条件になってくるのです。いわば最も重要な条件だと言って良いでしょう。
最近では車にカメラを搭載して、走行中は撮影をする人が増えていますが、交通事故が起こった時にとても役立ちます。
証拠がなければ主観での判断となりますが、撮影データがあれば客観的な証拠となるのです。この要件を満たすためには非常に効果的な手段でしょう。
2.権利又は利益が侵害されたこと
この要件では被害者になった人の生命や健康、または財産を侵害されたことと解釈されます。つまり、交通事故においてなにかしらの損害があった時に適用されるものだと考えてください。この条件については、立証するのは難しくありません。
事故によって、破損した自動車や車に載せていた物品なども含まれます。当然ですが、怪我をした場合や死亡したケースなども対象になります。他にも逸失利益といって、事故がなければ本来得るはずだった利益なども含まれる形です。
3.損害が発生したこと
この要件もまた立証する難易度は、低いといって良いでしょう。加害者の行ったことで、被害者に損害が実際に発生しているかどうかを問うものだからです。ただし、場合によっては損害の発生を認める認めないともめることがあります。
それは被害者の財産だけではなく、健康的な部分への被害も含まれるからです。肉体的な被害である怪我はわかりやすいですが、精神的な被害もまた対象となっています。
しかし、精神的な苦痛は、目で見てわからない部分だけにどうしても判断が難しくなってしまうのです。
4.権利の侵害により損害が発生したこと
この要件について言い換えると、交通事故によって起こった損害であるかどうかになります。つまり、交通事故とその損害に因果関係があるかを問われていることになるのです。一見すると、わかりやすい要件だと言えるでしょう。
しかし、どこまでも因果関係として含めるのかが問題です。いわば二次被害的な損害があったとして、それも事故との因果関係があるのかどうか、他にも事故から数ヶ月時間経過して発症した怪我についてどう考えるのかなどです。
自賠法の運行供用者責任とは被害者側のリスクを軽減する
交通事故における損害賠償は、民法の不法行為責任によるものだと既にお伝えしました。しかし、被害者に不法行為責任を立証する責任があります。ただ、この立証をするのが難しいケースがあり、それを救済するために自賠法が存在しています。
この自賠法において理解しておきたいのが、運行供用者責任というものです。仮に不法行為責任を追及できたとしても、誰しもが損害賠償に耐えうる資産を持つとは限りません。そのため賠償が決まったとしても、支払いを受けられない可能性があるのです。
こうした被害者側のリスクを軽減するのが、運行供用者責任になります。
一般的に不法行為責任を追及できるのは加害者のみですが、加害者本人以外にも請求できると考えてください。
以下に詳しいポイントを紹介しておきます。
この3つのポイントをしっかりと押さえておくことで、より理解を深めることができるでしょう。
【ポイント1】立証責任の軽減
運行供用者責任の中で立証責任の軽減が適用されます。従来の不法行為責任は、その立証が難しいとされてきました。その中で特に難しいとされるのが過失か故意のいずれかであったとするものです。
この点について、運行供用者責任では立証をしなくても良いと決められています。ただし、無条件で加害者の不法行為責任が問われるわけではありません。
- 加害者の運転で注意を怠っていなかった
- 被害者か第三者に故意か過失があったケース
- 自動車に欠陥や機能の障害がなかった場合
この3つの要件については免責される事項となっています。つまり不法行為責任を問えなくなります。反対にこの3つを満たさないケースについては、立証責任なく不法行為責任を問えるのです。
【ポイント2】適用は人身事故のみ
この運行供用者責任が適用されるのは、すべての交通事故ではありません。先述したように自賠法は、交通事故の被害者を救済する目的で作られたものだからです。つまり、人身事故でしか適用されないものだと考えてください。
さらに正確にお伝えするのなら、自動車による人身事故のみになるので覚えておきましょう。自動車以外の事故については、仮に人身事故でも適用されることはありません。自動車の事故であっても、物損事故である場合も対象外となってしまいます。
この違いについてはしっかりと理解しておきましょう。簡単に要件をまとめます。
- 自動車による人身事故のみ適用される
- 自動車の事故でも物損事故なら適用されない
- 人身事故でも自動車以外の事故には適用されない
この3つのポイントを押さえておくことで、より運行供用者責任を理解できるはずです。
【ポイント3】使用者責任と運行供用者責任が同時に発生するとき
少し細かい点についても解説をしていきます。仮に被雇用者が、業務中に事故を起こしたと考えてください。この時に使用者責任と運行供用者責任が同時に発生します。ここでなにを根拠として賠償責任の追及をするのでしょうか。
この2つの違いについては人身事故であったのか、または物損事故であったのかで区別すると考えてください。自賠法は法的には特別法になり、民法は一般法になります。つまり、要件を満たす限りは自賠法が優先される形です。
仮に運送中のトラックが事故を起こしたとします。これが人身事故なら、運送会社は運行供用者責任を問われます。物損事故であった場合は、使用者責任になると考えてください。
自賠法(運行供用者責任)と民法(不法行為責任)の違い
ここではさらに自賠法と民法の違いについて考えてみましょう。この2つは、交通事故における損害賠償を請求する時の根拠となるものです。この2つの違いをしっかりと把握しておくことで、より請求をスムーズに行えるでしょう。
ポイントになるのは2つです。(参考:交通事故相談ニュース28号「交通賠償に必要な保険知識12」)
- 自賠法は加害者側が無実を立証しなくてはいけない
- 民法は被害者側が立証をしなくてはならない
この2つが民法と自賠法の大きな違いになってきます。交通事故では、どちらかに責任が偏ることは珍しいです。どちらにも責任があるとされるのが、一般的な考え方でしょう。ただ自賠法では、加害者に過失があるのが前提となっています。
反対に、民法では被害者が加害者側に不法行為があったと立証しなくてはならないのです。この2つの違いを理解するために、より詳しい解説をしていきましょう。違いはそこまで難しいものではありません。
ただし、損害賠償的には大きな意味を持っているものですから、確実に頭に入れておいてください。
加害者に立証責任を課している
まずは自賠法における加害者が行うべき立証責任について詳しく見ていきましょう。大きくは3つのポイントがあります。
- 運行供用者と運転者に故意や過失がなかったとする
- 被害者か第三者に故意か過失あって事故が起こったとする
- 自動車に欠陥や障害がなかったとする
この3つは免責されるための条件なのですが、すべてが立証できなければ、損害賠償責任を負わなければならないのです。ただし、加害者側がこの3つをすべて立証するのはかなり難しいです。そのため事実上は、ほぼ賠償責任を負うことになるでしょう。
故意や過失がなかったとしても証明が難しい部分となるので、人身事故を起こせば賠償責任を免れません。もともと自賠法が被害者の救済を目的とする法律だけに、こうした規定が定められています。
居眠り運転事故のケース
仮に居眠り運転が原因となった交通事故があったケースを考えてみましょう。この場合は人身事故なのか物損事故なのかでその対応が大きく変わってくるので注意が必要です。
- 自賠法では加害者側が居眠りをしていなかったことを証明しなくてはいけない
- 民法では被害者側が加害者が居眠りしていたことを証明しなくてはいけない
この2つがポイントになるのですが、人身事故と物損事故では被害者側の対応が大きく違ってきます。特に物損事故では、立証責任を果たすのがかなり難しい条件となるでしょう。そして、過失が証明できない場合は賠償責任を問えないのです。
この違いによって生まれた自賠法が、かなり被害者側によって作られているのがわかります。そもそも被害者側が居眠りを証明するのは、専門家である弁護士を雇ったとしても難しい案件だと言えるでしょう。
可能性がある2つの不法行為
この2点について解説していきましょう。
【1】共同不法行為
交通事故で加害者が負うのは、民法による不法行為責任と自賠法による運行供用者責任の2つがあります。さらに、民法では共同不法行為も定められているので、紹介しておきましょう。
端的にお伝えしますと、事故を起こした加害者は1人とは限らないというものです。数人が加害者となった時には、各自が連帯をして損害を賠償する責任を負わなくてはいけません。いわば連帯責任と考えて良いでしょう。
被害者からの損害賠償の請求に対して、各自で支払う必要があります。ただ加害者の1人が全額賠償するという形になると、他の加害者が負うべき賠償責任がなくなります。
代表的な例としては、加害者側の自動車に同乗していた人が責任を負うこともあるので、うかつな真似はしないよう注意しておきましょう。
【2】異時共同不法行為
もう1つ共同不法行為において知っておくべきことがあります。それは異時共同不法行為というものです。仮に、交通事故にあって腕を怪我したとしましょう。その腕の治療中に、別件で事故にあってさらに怪我が悪化するとします。
時間をずらして事故にあい、同じ場所を負傷したということになります。このケースを異時共同不法行為と呼んでいるのです。異時共同不法行為が起こった時に、賠償責任はどうなるのでしょうか。
では、2つの加害者から賠償されるのかというと、そうでもないのです。2度目も事故が起きた時に最初の事故で発生した賠償は打ち切られます。その後は、2度目の事故の加害者が賠償を引きつぐ形です。
まとめ
交通事故で適用される法律には、自賠法と民法の2つがあります。この2つの法律の違いとしては人身事故であるのか、物損事故であるのかです。民法においては不法行為責任を問うためには、被害者が立証責任を果たさなくてはいけません。
このため民法の条文では、被害者が泣き寝入りしなくてはいけないケースが目立ったのです。そこで人身事故における被害者を救済するために、自賠法が作られました。自賠法では運行供用者責任があり、そちらでは被害者に立証責任はありません。
加害者側が自らに故意や過失がなかったことを証明する必要があり、被害者が大きく守られるようになったのです。ポイントとしては3つあります。
- 自動車による人身事故のみ自賠法となる
- 物損事故なら民法となる
- 自動車以外の人身事故だと自賠法は適用されない
ここが交通事故における大きな分かれ目なので、理解しておいてください。被害者側に立証責任があるのか、加害者側に立証責任があるのか、ここの違いを知っておくとスムーズに話が進みます。